〈指揮者インタビュー〉マーラー「交響曲第5番」イメージたっぷり解説~第3楽章~

マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会のメインとして演奏するG.マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調について、常任指揮者の藤田和宏氏に聞きました。

  

意外に自然派!マーラーの避暑地ぐらし

――次は急に明るくなる第3楽章です!どんな曲ですか?

藤田:自然のなかにいます。皆さんにとっても想像しやすいかもしれません。

――どんな自然ですか?

藤田:山あいのなかの、湖のほとりです。マーラーは夏の間、避暑地であるその場所で、朝作曲して、ひと泳ぎしてから朝食を食べるというような生活をしてたんです。それから散歩して、午後職場に出掛けてリハーサルして、帰ってきて寝るというような。

――すごくいいですね!マーラーは都会的なイメージがありますが、自然も愛していたんで
すね。

藤田:意外とそうなんですよ。もともと住んでいたイグラウという田舎も、ボヘミアの自然豊かな場所でしたし。「私は自然の音を歌にしているだけなんだ」と言っているくらいですからね。

――第3楽章はまさしく自然の音ですか。

藤田:そうですね。風、水、空や小動物たち、そんな音がいっぱいします。狩りの楽器、角笛に当たるホルンは、一人特別扱いで演奏するんです。もともとくるくる巻いていてきらびやかな楽器なんですが、一番奏者の、普段は見かけない動きをお楽しみにしていただきたいです。

 

イタズラいっぱいのスケルツォ

――第3楽章の形式、スケルツォとは?

藤田:「おどけた」という意味です。だから、おどけた軽やかな音楽になってます。「皮肉った」みたいな意味もあって、それも音で見事に表現されています。ふざけた音の動きや、突然音楽が変っちゃう場面がいっぱいあります。どうしたんだ?と思うんですけど、それがスケルツォです。マーラーがちょっとイタズラを仕掛けてるようなかんじですね。

――長い第3楽章を聴くポイントは?

藤田:長い曲ですが、没入するとすごく楽しい時間になりますよ。一番楽しいかもしれない。

――どうやって没入したらいいんでしょう。

藤田:自分が自然のなかにいると、うまく想像してもらえれば。広がる草原の上に立って、そこから見た自然を想像しましょう。アルプスの山が広がって、湖も広がって、狩りのホルンが遠くから聴こえてくるような、壮大な景色を思い浮かべてみてください。夏の澄んだ空気、気持ちいいですよ。

 

アルプスの美しい景色、どこまで想像できるか!?

藤田:踊りたくなるような三拍子で始まり、ルンルンとスキップするようにメロディが流れます。そのあと少し静まる田舎らしい場面は、素朴な人々が踊っているようなゆったりしたイメージです。それが素敵だなと思っていたら、急に元のルンルンに戻ったりします。ホルンのソロを過ぎると急に静まって、本当に静かなセクションが始まります。

――ものすっごい静かですよね。

藤田:さっきまでのうるささはどこへと(苦笑)さっきまでスキップしていたのが、静かな森を落ち着いて散歩し始めたような素敵な場面です。雑木林のなかで、落葉や枝を踏む、パキパキとかカサカサという音がしてきます。これは弦楽器のピチカートという奏法で表現されます。

――弓を使わず、指ではじく弾き方ですね。

藤田:はい。するとそこに、小動物が一匹現れます。マーラーの足音にびっくりしてちょっと逃げる小動物。なんでしょう?

――リス!

藤田:いいですね!ファゴットが吹く、リスみたいな小動物です。ひょっひょっひょと逃げ回って、そのあとまた無音になります。風も吹かない静かな森。マーラーの足音しかしない美しい瞬間です。それを過ぎると鳥が鳴く音とか、アヒルが湖をすいすいと泳ぐ様子とか、ふくよかな風の音とか、民謡のような歌が遠くから聴こえてきます。そして!そこからシームレスに、アルプスを見上げる瞬間がやってくるんです。

――おお!マーラーの視点が上に向くんですね。

藤田:万年雪で覆われたアルプスの山々と、ふもとの緑の草原、そして今立っている雑木林、それらを一望する瞬間です。360度アルプスを見回しているかのような美しい瞬間で、そこは見所ですね。

――とてもきれいでいいですね、涼しそうです。

藤田:さらに森の奥のほうに入っていくと、小川がさらさら流れていて、ぼちゃんと魚が跳ねる音が聴こえてきたりします。そんな静かな散歩をしていると、やがて元気を取り戻して、ついに最初に戻るんです!

――おお!再現!

藤田:戻るんですが、厳密には少し形を変えていて、ますますルンルンになってます。ランララーンってかんじだったスキップが、ピョーン!ピョーン!っていうスキップになったような(笑)

――愉快ですね!

藤田:そのうきうきを聴いてほしいです。最後は圧倒的な音量で終わります!

 

<「第4楽章」へつづく>


マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会

日時●2020年3月1日(日)14:00開演(13:30開場)

会場●高槻現代劇場 中ホール(大阪府高槻市)

指揮●藤田 和宏

独奏●場野 まりな

B.リンデ/ヴァイオリン協奏曲

マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調

※入場無料(カンパ歓迎)・全席自由(未就学児の入場可能)

※演奏メンバーを募集しております。エントリーフォームよりお申込みください。

 
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場野 まりな(ヴァイオリン独奏)

大阪府高槻市出身。大阪府立茨木高等学校卒業。東京藝術大学音楽学部を卒業後、京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。これまでに武田充代、木村和代、故 若林暢、澤和樹、漆原朝子、四方恭子の各氏に師事。また、霧島国際音楽祭、京都フランスアカデミー等のマスタークラスを受講。第16回日本クラシック音楽コンクール高校生の部入賞。第8回大阪国際音楽コンクール大学部門入賞。2009年8月、デュオコンサートを開催。2014年青山バロックザールにてソロリサイタルを開催。2018年9月、トリオコンサートを開催。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団等の楽団への賛助出演や後進の指導、アマチュアオーケストラと協奏曲の共演を行っている。