マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会のメインとして演奏するG.マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調について、常任指揮者の藤田和宏氏に聞きました。
「長い曲のガイドになるように」
――それぞれの楽章について詳しく聞いていきたいんですが。
藤田:はい!
――そもそもなんでこういうインタビューをしてるかっていうと、演奏会でクラシック音楽を聴くにあたって、いま何を考えて座ってたらいいんだろう?って思う人がいるんじゃないかと。そうじゃないよって人は全然それでいいんですけど。何に注目して、何を考えたらいいか全然わからないという人のガイドになればいいなという意味で。
藤田:いい切り口ですね。実際僕もなんですけどね。いま何考えて聴いてたらいいんだろう?ってこと、僕もあります。
――ありますよね。知ってる曲ですら。
藤田:だって長いんだもん(笑)
――長い(笑)なので、こういう見方もあるんだなと、自分の想像力を働かせるための、一つの材料にするように読んでもらえたら、うれしいですね。
藤田:そうですね、ガイドがあるととても入りやすいと思うので、少しは助けになるようにお話ししたいです。
「繰り返される葬送行進曲は天丼」
――第1楽章はどんな曲でしょう?最初のトランペットがとても有名ですよね。
藤田:あれは、ものすごいメロディですよ。たった一人で始めなきゃいけないんです。100人の奏者と数百人のお客さん全員がたった一人に注目するわけですから、これほどドキドキする状況もないですよ。見所の一つです。
――音が高いから難しいんですか?
藤田:低いところから高いところまで、音域が広いうえに取りにくい音だから難しいんですね。で、トランペット一人で吹いてるなと思ってたら、いきなり全員ドシャー!とやってきます。
――ちょっとびっくりしますよね。
藤田:でもここまでは導入であって、実際の葬送行進曲はそこからゆったりと始まります。弦楽器を中心にしっとりと歌われるんですが、これがまぁ暗い。世紀末感が漂ってます。
――マーラーは世紀末の人ですよね。
藤田:そうですね、まぁ世紀末から世紀初めなんですけどね。この曲は20世紀が始まったばかりの1902年に完成しています。
――私たちが生きてる時代のちょうど100年くらい前を生きてたかんじですね。
藤田:そういうことになります。何の葬送行進曲かといったら、そうだなぁ、既成の価値観、世の中、マーラー以外のすべてか、それともマーラー自身か。何を葬送しているのかと思って聴いたら面白いかもしれないですね。
――現実に亡くなった誰かを偲んでいるリアルな葬送ではなくて、抽象的な葬送なんですよね。
藤田:そうなんです。その沈痛な音楽が繰り返されて、ちょっとずつ拡大されていきます。
――拡大というと、楽器が増えるということですか?
藤田:いや、長さが長くなるんですね(笑)最初に葬送の部分がある、でもう一回冒頭と同じファンファーレの部分があって、もう一回葬送行進曲が始まるんですけど、その途中に少し明るい部分が挟まるんですね。その分長くなってるんです。こういうのを交響曲の世界では「確保」とかいいます。皆さんの心に定着するように繰り返すということですね。
――漫才でいうところの「天丼」ってやつですかね(笑)繰り返してオチつけるという。
藤田:そんなかんじかもしれませんよ(笑)第1楽章には2つのエピソードが入っています。葬送行進曲がメインの部分で、その間に違う音楽が1個挟まって、また葬送行進曲があって、もう一個別の音楽が挟まって、最後葬送行進曲で終わるという中身になってます。場面転換がとっても急なところもポイントです。
――急ですよね、ビクっとなるかもしれないですね。
「飽きたら打楽器を見よう」
藤田:あとは、管楽器のソロが聴きどころ満載です。
――ソロが目立ちますよね。
藤田:トランペットは特にですが、トランペットとヴィオラソロという聞いたことのない組み合わせがあったり。
――トランペットとヴィオラ!
藤田:これがやってみると意外と合うんですよ。
――飽きてきたらどこを見てたらいいですかね?
藤田:特に葬送行進曲の部分は飽きますからね。そのときは、打楽器見てると面白いかもしれません。
――動きが多いですか?
藤田:葬送行進曲っていうじゃないですか。行進曲なので、リズムをとるんですね。すごく弱音で特有の響きを作ってますので、楽しんでいただきたいです。静かなほど、逆に際立ってきます。
――スネアってことですか?
藤田:そうですね。スネアに加えて、バスドラムとシンバルも味を出してます。
――太鼓たちに注目ですね。
藤田:あとは、世紀末的なくすんだ色を想像しながら聴いてもらえるといいかもしれません。
<「第2楽章」へつづく>
マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会
日時●2020年3月1日(日)14:00開演(13:30開場)
会場●高槻現代劇場 中ホール(大阪府高槻市)
指揮●藤田 和宏
独奏●場野 まりな
B.リンデ/ヴァイオリン協奏曲
マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調
※入場無料(カンパ歓迎)・全席自由(未就学児の入場可能)
※演奏メンバーを募集しております。エントリーフォームよりお申込みください。
場野 まりな(ヴァイオリン独奏)
大阪府高槻市出身。大阪府立茨木高等学校卒業。東京藝術大学音楽学部を卒業後、京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。これまでに武田充代、木村和代、故 若林暢、澤和樹、漆原朝子、四方恭子の各氏に師事。また、霧島国際音楽祭、京都フランスアカデミー等のマスタークラスを受講。第16回日本クラシック音楽コンクール高校生の部入賞。第8回大阪国際音楽コンクール大学部門入賞。2009年8月、デュオコンサートを開催。2014年青山バロックザールにてソロリサイタルを開催。2018年9月、トリオコンサートを開催。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団等の楽団への賛助出演や後進の指導、アマチュアオーケストラと協奏曲の共演を行っている。