〈指揮者インタビュー〉マーラー「交響曲第5番」イメージたっぷり解説~概要編~

マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会のメインとして演奏するG.マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調について、常任指揮者の藤田和宏氏に聞きました。

 

「すべては過剰でなければならない」

――今回のメイン曲はマーラーの5番。まずは選曲理由を教えてください。

藤田:前から候補にはあがっていたんですけどね、オーケストラが大きくなってきて大曲に挑戦できるようになってくると、こういう曲もやりたくなって。オケの成長に合わせてやってきたので、来るべくして来たというかんじです。

――去年のエルガー2番もなかなか大曲でしたね。

藤田:ですね。エル2はマラ5とほぼ同じ編成で、難しさもなかなかのものでしたから、これができるならマーラーもできるんじゃ?と思ったわけです。

――実際に取り組んでみてどうですか?難しさは。

藤田:実は、まぁ、難しかったんですよね(苦笑)だから、エルガーやっといてよかったです。

――どういうところが難しいですか?

藤田:バラバラなんですよね。オーケストラでは、同時に動いているモーションが、メロディと低音プラス、和声か対旋律くらい、3つか4つで動いているのが普通なんですよね。これがマーラーの場合は4つは最低ラインで、5つか6つくらい動いていたりするんですよ。

――詰め込みたい人なんですね(苦笑)

藤田:どうやらそうらしく、マーラー自身が語ってるんです。「すべては過剰でなければならない」と(苦笑)。バラバラゆえに息を合わせるのが大変で、エルガーよりさらに一段階難しいようなかんじですね。

 

「楽器のブレンドで生まれるカラフルなドラマ!」

――難しいとはいいつつも、ファンの多いマラ5。どんな曲ですか?

藤田:そうですね、とにかく巨大なんです。いろいろな語り方ができて。巨大な映画のようにドラマティックだったり、絵巻物のように綿々と続く物語のようでもあります。

――薄まることなく、ずっと濃いのが続くかんじですか?

藤田:そうなんですよ。ただ興味深いのは、物語はずっと濃いのに、同時に鳴ってる楽器の数は意外と少ないんですよ。だから、すごく効率がいいですね。

――少ない楽器で豊かな表現を作るという意味で?

藤田:そう、組み合わせを絞ることで逆にパターンの数が増えるわけですね。20種類くらいの楽器があって、全部鳴らせば一通り。それをフルートとオーボエ、フルートとクラリネット、オーボエとヴィオラ…みたいに一対一で組み合わせると、結構な数の組み合わせが生まれるんです。それを、マーラーは巧に利用してますね。

――なるほど。気に入ってる組み合わせとかありますか?

藤田:第3楽章にある、トロンボーンとフルートですね。

――それは意外な組み合わせ!

藤田:そう、全然合わなさそうだけど、意外といいバランスでできてるんです。

――では、楽器のブレンドに注目ですね。

藤田:大注目ですね!カラフルですよ。

 

「自分の心の内の人間ドラマを語っている曲」

――曲の内容はどんなかんじですか?

藤田:一言でいうと、「非リア充だった俺が、最高の嫁に出会って結婚できた件」です(笑)

――ラノベ風のこの文言、団内では定番の文言になってきましたね(笑)

藤田:マーラーファンの方には、ちょっと申し訳ない気もするんですが…でも言ってしまうとそうかなと。

――マーラーが妻アルマに出会って結婚するまでを描いたストーリーですね。

藤田:実は第3楽章は出会いより前からあったんですが…大まかにいうとそうですね。あとは第5番であること、暗から明に至る構成、タタタターンという音形なんかを絡めて、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」との関連がよく謳われます。でもまぁ運命で描かれる崇高さとは、かなり大きな差がありますね(苦笑)

――マラ5のほうがより個人的なかんじがしますね。

藤田:そう、まさに自分の心の内の人間ドラマを語っている曲です。

――逆に親しみを持って内容を理解できるかもしれないですね。ざっくり曲の流れを教えてもらえますか?

藤田:5楽章形式なんですが、きれいに3部に分かれてます。マーラー自身が指定していて、第1,2楽章が第1部、第3楽章が第2部、第4,5楽章が第3部です。第1部は統一して暗いです。第1楽章は鬱屈とした個人的感情が渦巻く葬送行進曲です。第2楽章はのっけから支離滅裂で、アルマによるとこの曲は「彼の自我と全世界との戦い」だそうです(苦笑)

――仰々しいですねぇ。

藤田:はい、やたらスケールの大きい戦いの音楽です。最後は弱々しく負けちゃいますが。そこから長い休みを挟んで第3楽章ですが、これは一転してめちゃくちゃ明るいです。描かれているのは自然ですね。あえて意味を与えるとしたら、今まで鬱屈としていたマーラーがアルマに出会って人生を謳歌し始めた解放感のようなものがあります。

――余裕ができたかんじですね。そこから?

藤田:第4楽章は日本でも海外でも映画に使われている、とっても有名な曲です。これは「マーラーからアルマへのラブレター」だと明記されています。とにかく美しいバラードなので、酔いしれて聴いてほしいですね。休みなく続く第5楽章は、ただただ歓喜に満ちています。マーラーには珍しく、暗さがなくて明るさだけがあります。これまで我慢していた全楽器の合奏が最後にやってきて、けたたましく終わります。

 

<「第1楽章」へつづく>


マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会

日時●2020年3月1日(日)14:00開演(13:30開場)

会場●高槻現代劇場 中ホール(大阪府高槻市)

指揮●藤田 和宏

独奏●場野 まりな

B.リンデ/ヴァイオリン協奏曲

マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調

※入場無料(カンパ歓迎)・全席自由(未就学児の入場可能)

※演奏メンバーを募集しております。エントリーフォームよりお申込みください。

 
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場野 まりな(ヴァイオリン独奏)

大阪府高槻市出身。大阪府立茨木高等学校卒業。東京藝術大学音楽学部を卒業後、京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。これまでに武田充代、木村和代、故 若林暢、澤和樹、漆原朝子、四方恭子の各氏に師事。また、霧島国際音楽祭、京都フランスアカデミー等のマスタークラスを受講。第16回日本クラシック音楽コンクール高校生の部入賞。第8回大阪国際音楽コンクール大学部門入賞。2009年8月、デュオコンサートを開催。2014年青山バロックザールにてソロリサイタルを開催。2018年9月、トリオコンサートを開催。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団等の楽団への賛助出演や後進の指導、アマチュアオーケストラと協奏曲の共演を行っている。