〈指揮者インタビュー〉リンデとは?――音楽でスウェーデン体験すること

マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会の前プロとして演奏するB.リンデ:ヴァイオリン協奏曲op.18について、常任指揮者の藤田和宏氏に聞きました。

 

「ソリスト発信の凍てつくコンツェルト」

――皆さんが謎に思っている「リンデ」について聞きたいのですが、リンデっていうのは…誰ですか?(笑)

藤田:(笑)いや、これすごかったですよね、誰も知らなかった。僕も知らなかった。

――どういう経緯で選曲したんですか?

藤田:コンサートマスター場野くんのお姉さんが、場野まりなさんというプロのヴァイオリン奏者でいらっしゃって、第8回の頃からMCOにサポートで乗ってくださっているんですね。その方をソリストにお迎えして協奏曲をやってみたいなということでお話をして、そのときに挙がってきたナンバーワン候補がリンデだったんです。

――おお、ソリストさん発信ということですね。

藤田:はい。僕もやってみたい協奏曲はあったんですが、いろいろと模索するなかで、これはもうソリストさんがやりたい曲をやろうということで、思い切って振ってみることにしました。「リンデって良いのがありますよ」というかんじで、それに乗っかったんです。

――ソリストさんは、どこでリンデを知ったんでしょう?

藤田:これもなかなか奇遇な話で、立命館大学交響楽団とスウェーデン人演奏家が共演した演奏会があって、そこでリンデのソナチネが演奏されたそうです。まりなさんはそれを聴いて、「なんやこのかっこいい曲…!」と、ときめいたみたいで、実際にソナチネをやったりもして、協奏曲があることも知ったという流れでした。

――スウェーデン人の曲、珍しいですね。

藤田:スウェーデン音楽というのは、クラシックの世界ではあまり聞かないですし、ましてやリンデは、街に根差した作曲家だったみたいで、なかなか認知されなかったんですね。

――それで、曲を聴いてみた感想は?

藤田:現代音楽に近いものでした。近しいのはブリテンとかですね。聴きやすさを保ちつつも、斬新な音を聴かせようとする。こういうのはなかなか出会わないですね。おもしろいなと思ってます。

――そのバランスが良いんですね。

藤田:そう、そのバランスがいいとこ突くんです。とても賢い方だったんだと思います。緊張感と一瞬のロマンが、良いバランスで満ちている素晴らしい曲ですよ。

――どんな雰囲気の曲ですか?

藤田:そうですね。大事なポイントですが、まず「寒い」ということをわかってください。北欧ということで、とにかく寒いですね。

――寒い曲。

藤田:聴けばもう、凍てつく。有名なシベリウスさんよりも、さらに寒いかもしれない(笑)

――体感でいうと何度くらいですかね?

藤田:マイナス5℃ですね(笑)雪が一面を覆ってて、雲か霧かわからないものがもくもく立ち込めてるような、寒ーい曲です。なので、さっき言った、厳しいなかにロマンありというのが、景色ときれいに融合して、凍てつくスウェーデンが見えます。

――曲の長さはどのくらいですか?

藤田:25分くらいで、そんなに長くないんです。だけどそのなかはすごく変化に富んでいて、思いのほかさまざまな色合いを見せてくれます。寒さのなかにも緩急がありますね。

――寒いところの作曲家が好きな人っていますよね。ラフマニノフとかシベリウスとか。そういう人にはおすすめですか?

藤田:そうですね、おすすめですね。澄んだ冷たさが好きな人、雪ドカドカドカっていうより、凛とした空気が好きな方には特に、おすすめですね。

B.リンデ(1933-70)が活躍した街イェヴレの市庁舎前広場。ストックホルムから約170km北にある。

B.リンデ(1933-70)が生まれ、活躍した街イェヴレの市庁舎前広場。「イェヴレのヤギ」と呼ばれるクリスマスの飾りで知られ、人口約7万人、ストックホルムから約170km北にある。Photo:Calle Eklund/V-wolf



 

「見たことのない雪国を体感できる」

――全く知らない曲に取り組むというのは、飛び込むのに勇気がいるかもしれないですけど、初めての曲やるって、いいですよね?

藤田:初めての曲やるの、すごくいいですね。名曲は名曲で何回やってもいいんですけど、ちょっと知見を広げるのは、とってもいいことですよ。こんな世界あるんだっていう驚きは、血が沸き立つというか目が輝くかんじが、自分でもします。

――弾いてる人にとっても聴いてる人にとっても新しい体験になりますかね?

藤田:はい。こんな音や描写がこの世にはあるんだという発見がリンデにはありますね。2楽章構成ゆえに非常に変わってて、例えばソリストの見せ場であるカデンツァの場所が斬新だったり。

――どこですか?

藤田:第1楽章の序奏のあと。3分くらいゆったりした序奏があって、凍てつくスウェーデンの湖がバアー!!っと広がった、そのあとに、「ひとり立つ人」…!みたいなかんじで。

――おお、かっこいい!見えますね、8Kで(笑)

藤田:もう、目の網膜より鋭いっていう(笑)

――でもそういうことって本当にあって、見たことない、感じたことないものが、音楽で聴いたり弾いたりして、見えることってありますね。

藤田:ありますね。リンデはそういうのがあるかもしれない。だってマイナス5℃の空間に普段いますかと。雪国に住んでないと体感できない世界ですからね。地平線の向こうまで真っ白で空気がピカピカという環境が、日本にはないので、現地に行って感じるか、こうやって感じるかになるんですね。テレビとか目で見るのもいいですが、音と肌で伝わる感触ってなかなかリアリティがあって、没入感ありますよね。スウェーデン体験ができます(笑)

――曲の難易度はどうですか?

藤田:んー、中の上くらいですかね。コンツェルトなので伴奏がめちゃくちゃ難しいということはないですが、少し変わった音の動きが出てきます。

――まりなさんのヴァイオリンの音を間近で聴けるというのも、楽しみですよね。

藤田:楽しみですね。凍てついた空気を表現するのに、ヴァイオリンの高音はとっても似合ってる。ピーンと張った空気の音をお楽しみいただきたいです。

リンデ:ヴァイオリン協奏曲のスコア。スウェーデンのGehrmans Musikförlag社より取り寄せた。

リンデ:ヴァイオリン協奏曲のスコア。スウェーデンのGehrmans Musikförlag社より取り寄せた。

「乗った方は全員リンデの第一人者」

――ほとんどの方がリンデって誰?から始まると思うのですが。

藤田:逆にこれから広がったらおもしろいと思ってます。

――これでもし広がったとしたら、「俺リンデの第一人者やで」って言ってもらっていいですよね(笑)

藤田:はい、なぜならこれは、プロアマ含めた日本初演だから!

――もう、今回のMCO乗った方は全員リンデの第一人者ということで(笑)

藤田:そう、偉大です。クラシックの未来に関わるかもしれない。なぜなら、この曲はいい曲だからです。埋もれさせるのはもったいないです。

――一度ぜひ聴いてみてほしいですね、YouTubeにも上がってますし。

藤田:そうですね、おお凍てついてる!ってなりますよ(笑)

――エントリーする前にぴぴっと検索して確認してもらえると。

藤田:この曲、最後静かに終わるんですけど、スウェーデンの大地の向こうへ消え去っていきますからね。その美しさも味わっていただきたい。

――マーラーとの組み合わせはどうなんですか?

藤田:クラシック音楽の中心地とそうでないところで、見事に分かれてますね。マーラーはクラシック界の頂点にいた人なので、バランスがちょうどいいかなと。リンデはメインでなく前プロなので、初めての曲だな飲み込めるかなと思っても、メインは有名なマーラーで、最後にはとっても明るく終わって、幸せな気分で帰れるという。

――いいですね。ぜひ…乗ってください!

藤田:乗ってください!みんな第一人者になろう!(笑)

 


マグノリア室内管弦楽団 第12回定期演奏会

日時●2020年3月1日(日)14:00開演(13:30開場)

会場●高槻現代劇場 中ホール(大阪府高槻市)

指揮●藤田 和宏

独奏●場野 まりな

B.リンデ/ヴァイオリン協奏曲

マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調

※入場無料(カンパ歓迎)・全席自由(未就学児の入場可能)

※演奏メンバーを募集しております。エントリーフォームよりお申込みください。

 
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場野 まりな(ヴァイオリン独奏)

大阪府高槻市出身。大阪府立茨木高等学校卒業。東京藝術大学音楽学部を卒業後、京都市立芸術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。これまでに武田充代、木村和代、故 若林暢、澤和樹、漆原朝子、四方恭子の各氏に師事。また、霧島国際音楽祭、京都フランスアカデミー等のマスタークラスを受講。第16回日本クラシック音楽コンクール高校生の部入賞。第8回大阪国際音楽コンクール大学部門入賞。2009年8月、デュオコンサートを開催。2014年青山バロックザールにてソロリサイタルを開催。2018年9月、トリオコンサートを開催。現在は大阪フィルハーモニー交響楽団等の楽団への賛助出演や後進の指導、アマチュアオーケストラと協奏曲の共演を行っている。